「女流 林芙美子と有吉佐和子」 

女流 林芙美子と有吉佐和子

林芙美子への興味が切れなくて、この本をポチッとしました。
白バックの本なので、輪郭がわかりづらいですが、文庫の表紙よりこちらの方が素敵なので、
あえて載せますね。

膨大な資料を読み込み吟味したその労苦がしのばれる内容です。
しっかりした歴史観を元に展開される洞察。
記念展でのわたしの「かんそうぶん」など雨上がりの水たまりよりも浅い浅い。
でもそれはそれとして残しておきましょう。

目に馴染みのない熟語もたくさん出てきて、決して平易な文章ではないのだけれど、
でもぐいぐい読めてしまう。文体がいいから、だと思う。
余談ですが、平易なのに「どーにも読みにくい」本もありますね。あれも文体のせいだと思います。

こころに残ったフレーズ。
「本当のプロレタリアートはプロレタリア運動に共感しない」
林芙美子のこと。後年アナーキストたちとは距離を置いていたそうだ。
辻潤の実に「下品」な発言も紹介されている。「女への嫉妬かなあ」とわたしには読めました。
「自我の拡大」
これは、林芙美子の生き方。
物書き、とくに女の物書きは、自我の固まりみたいなもので、「女優の自己愛」とは似て非なる産物。
それが拡大するんだから、すごい。

林芙美子が、心臓の持病を抱えながらも、来る仕事を一切拒まず書き続けたのは、「他の作家にチャンスを与えたくなかったから」とある。誇張でもなさそうだ。
葬儀委員長の川端康成が、
「林さんはあと2時間で骨になってしまいます。死は一切の罪悪を消滅させますから、どうか故人を許してもらいたいと思います」
と異例のあいさつをし、そこで初めてすすり泣く声が聞こえたという。

後生の私たちは、でんぐり返しの森光子によって、林芙美子像をつくってしまっている。自身も苦労人だった森光子は、
どんなふうに林芙美子と対峙してるのだろう。それも大いに興味が湧く。

自我の拡大で突っ走った林芙美子の数少ない友人として、平林たい子と壺井栄の対談が紹介されている。
忌憚ない人物評は、痛快なかぎり。
やっかいな人間とつきあうのは、そこに「愛嬌」を見いだせたからなのか。それとも、作家の眼で、人間・林芙美子を洞察する愉しみがあったからなのか。
平林たい子の書き物からの引用はあるけれど、壺井栄の発言はこの対談だけだ。
宮本百合子に「林芙美子と友人であること自体、あなたの堕落」と言われたという壺井栄。
何が哀しゅうて友だちだったのか、わたしは、壺井栄という作家が割と気になってます……。

後半の有吉佐和子論も読み応えアリ。
洋食屋のテーブルに並んだ、シチューとハンバーグのような「女流作家」ふたり。
胃袋の丈夫な方は、どうぞ!

「女流 林芙美子と有吉佐和子」 ” への2件のフィードバック

  1. 徒党を組まないのは女性の長所だと思うんですが、女性史から学ばないんですよね。
    整えられた環境があってこそなのに、自分の実力と勘違いして、自我の拡大をしてるワーキングウーマンが多いのだと思います。
    お気持ちお察しします。
    関川さんのこだわる「女流」、是非堪能してみてください!

    ほめてくれておおきに!

  2. いま日課のジョギングから帰って来たばかりでして・・・
    僭越ながら、気迫のこもった文章に感心してしまいました。
    昔から関川夏央のノンフィクションは好きでフォローして来ましたが
    これは読んでませんねえ。今度ぜひ読んでみます。
    林芙美子も有吉佐和子もあまりよく知りませんが、そもそもこの二人を並べることで
    どういう時代が見えてくるのか、関川さんの洞察とロジックに期待したいです。
    それにしても宮本百合子のコメントはいかにも宮本らしくて笑えますねえ。
    川端康成の弔辞にしても、やはりいろいろと毀誉褒貶があった人なのでしょうか。
    だとすると、よけいに興味がわいてきます。
    「自我の拡大」は、当時の時代や女性の置かれていた立場として当然でとしても
    どうも最近は自我が拡大し過ぎて、妙に片意地を張った女性ディレクターや
    勘違いしている女性プロデューサーが多くて、閉口すること再三です。
    でも「女性作家」と「女流作家」はどう違うのでしょうかねえ。
    なんとなくニュアンスはわかるのですが・・・(笑)

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